山楽写真講座　作品講評　 018



　　
　　　　　　　　　　

2021年　3月　　日高昇一　さん　作品　　

豪雪地帯の新潟県津南町に点在する池の一つに、中子池があります。

遅い春の雪解けを迎えると、満開のサクラが彩り、雪が残る池には気温差による霧がたなびいて、

この土地のこの時期にでしか見られない光景が現れますが、その情景を的確に表現していますね。

絞りを最小絞りにして湖面の輝きを残しながら、漂う霧を浮き立たせ、リズミカルな杉林を背景にして満開のサクラを栄えさせた構図に、

作者の豊かな表現力を見て取れます。

柔らかい光に包まれた淡い色彩の1本サクラを、しっとりとした日本画のように作画した感性は、

作者が風景を見つめる優しさの再現ですね。

この作品に使われているパステル調の色彩は、カラーイメージ理論の云う、

初々しさや冬から春への生命の産声という色彩の表現効果があり、

まさに作者が狙った通りの「優雅で優しい」作品になっています。

前景に水ゆらぐ水面を配置して画面安定させ、サクラやスギ林の山並み、湖面をたなびく霧などを画面上部に配置して、

季節や躍動感を表現した構図は卓越しています。

単調になりやすい1/2構図を使いながらも、大きさの異なるサクラを左右に配置して

鑑賞者の視線を誘導しているのも単純化を防いでいます。

次のステップとして、前景に水鳥や緑の前ボケなどを入れて、単純化しやすい水面に変化を付けてみましょう。

前作2作品にも登場する1本サクラですが、作者の作画イメージにより、それぞれの表現が大きく異なっているのは、

写真家としての表現力の多様性と豊かさの証左です。

水面をゆらぐ霧から浮き立つサクラで、春の訪れと云うメッセージを鑑賞者に伝えてから、

幻想的にたなびく霧や背景のスギ林へと視線を誘って、情景を表現する能力は非凡です。

なお、撮影ポジションの制限もありますが、右端の灌木はフレーミングから外したいですね・・・

　水面にサクラが写り込むシンメトリー構図で、多くの方が観やすい安定した構図になっていますね。

68ミリの焦点距離で絞り16、シャッタースピードが1/15秒と云う撮影データですが、

水面のさざ波でサクラの映り込みがギザギザしているため、淡いピンクの映り込みが硬い印象になってしまいました。

シャッタースピードを遅くすると、サクラの写り込みが柔らかく表現できますので、

ISO感度をISO100に固定してから、絞りを最小絞りに設定します。

次に、NDフィルターやPLフィルターを付けてシャッタースピードを更に遅くしましょう。

なお、三脚を使用しての撮影ですので、ブレ防止装置はOFFにしておきます。

水平線を境にしたシンメトリー構図により、サクラやスギ林の実像とそれらが水面に映る虚像を

彩り豊に表現していますね。

また、左端のサクラを配置して遠近法を取り入れることにより、単純化しやすいシンメトリー構図を、

個性的な作品として仕上げているは卓越した構成力です。

なお、さざ波が立つ時の水面の映り込みは、シャッタースピードを変えると表情が変化しますので、

前作と同じテクニックで撮影してみましょう。

日本の原風景の一つと言われる「星峠の棚田」を、夜明け前の静寂の中で幻想的に表現した

情緒豊かな作品ですね。

作品を見ていると、陽の光を待つ静かな時の流れの中で、小鳥のさえずりやカエルの鳴き声が聞こえて来るようで、

作者の感じた心内を伺える作品です。

露出を切り詰め、ホワイトバランスをブルーに寄せて撮影しているのも

、イメージを表現するためのテクニックを、的確に使いこなしていと感じました。

早苗の時期を迎えると棚田にサクラが写り込む「儀明の棚田」ですが、

小雨交じりの天候とサクラの花も満開とはいえない自然条件です。

その様な状況の中で、

鏡面の水面をたたえる棚田の「静」と、山肌に纏わりつきながら流れる雲の「動」に、芽吹きの始めた木々の彩りを加えながら

季節を表現した作者の感性は、とても個性的で繊細です。

鑑賞者の視線を棚田の畔（あぜ）の優美な曲線から、雪国特有の常緑樹と広葉樹が混生する尾根筋の芽吹きへと季節感を誘い、

雲の流れの躍動へと導く構図力は卓越しています。

戦争中に伐採されたブナ林が、戦争が終わるとブナの種が一斉に発芽して均整のとれたブナ林となった「美人林」ですが、

春には力強く水を吸いあげて成長するブナの躍動を、縦構図で表現したのは適切です。

樹林の中の溜め池は変化に乏しいのですが、小雨の波紋を映し入れることにより、

情景を表現したのも、自然の営みを作画に生かしたベテランの技ですね。

新緑の樹林の中に残雪が広がるのは、豪雪地帯ならでは光景ですが、

画面中央の木で画面を引き締めながら、新緑の彩りと残雪の造形を組み合わせた作品ですね。

　画面右下の残雪が消えた三角形の地面が、構図的に画面を不安定にさせていますので

（画面を斜めによぎる構図線は、画面を不安定化させやすい線です）、

撮影ポジションを移動して、残雪の広がりが画面下部を安定させるフレーミングにしましょう。